映画『深い谷の間に』感想/ホラーやアクションあり。でも恋愛映画

■洋画

作品紹介

山間の渓谷の東西には監視塔が設置されており、それぞれに優秀な工作員でスナイパーのリーヴァイとドラーサが配置されるが外部との連絡手段はなく、監視塔同士の接触も禁じられている。詳細も分からぬまま任務を開始した2人は、谷に潜む謎の敵を警戒しながら、絆を深めていく。やがて彼らは、自分たちの任務が、谷を守るということではなく、谷の中に潜む、ある“秘密”から世界を守ることだと知る。(2025年)

監督スコット・デリクソン
脚本ザック・ディーン
出演マイルズ・テラー/アニャ・テイラー=ジョイ/シガニー・ウィーバー

出演者

マイルズ・テラー(リーバイ)

ケビン・ベーコンが主人公を演じて大ヒットした「フットルース」の1984年版で、ダンスが下手なウィラード役でした。「セッション」で多くの賞にノミネートされ、2022年の「トップガン」でグースの息子を演じました。
大学生の頃、友人の運転で車に乗っていて、意識不明の重体の事故に遭い、命はとりとめたものの、顔に傷跡が残り、役をもらえなかった時期も。
今は傷跡も薄くなり、多くの役にも恵まれているけれど、転機になったのはジョン・キャメロン・ミッチェル監督の「ラビット・ホール」。才能のある人には必ずチャンスがやってくるものなのかもしれない。
今回は元海兵隊員でちょっと影のある凄腕のスナイパーを落ち着いた雰囲気で演じております。

アニャ・テイラー=ジョイ(ドラサ)

M・ナイト・シャマラン監督の「スプリット」で話題になり、「クイーンズ・ギャンビット」でゴールデン・グローブの主演女優賞(テレビの部・リミテッドシリーズ、テレビ映画の部)を受賞。
「ラスト・ナイト・イン・ソーホー」や「ノースマン導かれし復讐」など多数出演しています。
今回はリーバイと同じく優秀なスナイパーで、ハードなアクションにも挑戦。リーバイと恋に落ち、共に戦う強めの女性を演じています。

シガニー・ウィーバー(バーソロミュー)

「エイリアン」シリーズのリプリー役で有名。ワタシもシリーズは大好きで全部観ております。
「ワーキングガール」ではハリソン・フォードの最初の恋人で、部下の功績を自分のものにしようとする嫌な上司役でした。「コピーキャット」では、屋外恐怖症の女性を丁寧に演じています。
今回も、不都合なことを闇に葬るために平気で人を殺す役でした。

感想

最初は、アニャ・テーラー=ジョイが演じるドラサが標的を仕留めるところから始まります。
これが後に出てくる「遠距離射撃の最高記録」なのかな。
このときは、戦争ものなのか、また大物を仕留めるスナイパーのお話なのかと思っておりました。

そして、マイルズ・テラー演じるリーバイも、シガニー・ウィーバー演じるバーソロミューに呼び出され、極秘の任務につくよう命令されます。前任者から引き継ぎで説明されますが、詳しいことはわからず。
その前任者は、迎えに来たヘリの仲間に殺されてしまいます。
ここで、この任務は危険度が高いものだということがわかります。

東塔と西棟で分かれていて、その間には深い谷と濃い霧。
西塔にいるリーバイは、あるとき、東棟にいるドラサに気づき、ドラサもリーバイに気づきます。
そこから二人の交流が始まります。

東と西に分かれて双眼鏡でお互いの様子を見たり、伝言ノートで言葉を書いて会話をしたり。このSNSや通信手段が豊富な時代に、携帯もパソコンもなく、離れた場所からコミュニケーションをはかるには、こういう方法しかないのかもしれない。けれど、それがまたドキドキ感というか、ときめき感を生むような気がします。
それはSNSとかで会ったこともない人と会話をして「あ、この人とは何だか合うな」と思ったときのそれと似ているかもしれない。

たった一人の任務というのは、誰と会話することもなく、忍耐力が必要だと思う。そこに、離れているとは言え、相手がいたら、「交流は禁止」されているとしても、交流したくなるのは仕方ないのでしょう。
そういうやりとりをしている二人はまさに「恋人」。二人のときめき感が伝わってきます。

色々な要素を彷彿とさせる展開

二人が心を通わせ、ついにリーバイは、東棟のドラサの元に行き、よくある男女の流れに。
そこから、「スリラー」の部分が展開していきます。
1940年代から始まっていた軍事実験が失敗し、人間がその毒に侵され、悲惨な状況に。
それは何だか映画「アナイアレーション」やドラマ「The Last Of Us」を思わせるような展開。
また霧の中から「それ」が出てくる感じは「ミスト」にも通じるような。

そう思うと、映画やドラマの中で、いろんなアイデアというのはもう出尽くしているのか。
「エイリアン」が公開されたときは、それは斬新で、また、女性が戦うというところで、それまでの映画とは一線を画してた。それ以降のエイリアンにはあまり魅力を感じない。(個人的に)何をやっても二番煎じになってしまう。


ただ、実験の失敗で毒に侵され、木の一部になってしまったような人間の塊を見たときには、なんとも言えない悲哀を感じた。凶暴であるとはいえ、もう何十年もその場で苦しそうに息をするその姿は「エイリアン」で卵を産み付けられた人間のそれとよく似ている。
これがこの谷の外に出てしまえば、この地球の存亡にも関わることになる。爆破してしまえばいいものを、人間の「欲」はそこで終わらず、実験を続けるために「監視」が必要だったのだ。
最後にはお決まりのように、谷は爆破されるのだけれど、これを外に出さないためもあるが、かつては人間だったひとたちへの最後の「情け」的な部分もあってほしいと個人的には思った。

スリラー?アクション?でも恋愛映画

凄い斬新な発想、というところはないのだけれど、リーバイとドラサのアクションはハラハラするし、特にドラサは前向きでピンチの時にはいつも「強気でね」と言う。リーバイが谷に落ちてしまったときも、迷わず、装備をして自分もパラシュートで谷に降りていく。
ドラサの「強い女性」像は憧れるし、相手を思う強い「愛」には共感できる。
リーバイも、PTSDで苦しみ、最初は暗い影がある感じだったけれど、ドラサと出会って生きる気力を取り戻していく過程はよかった。

実験の失敗というホラー要素はあったものの、最後のシーンはまさに「恋愛映画」そのもの。
なんなら、リーバイとドラサの恋の顛末にホラー要素を取り入れた、という感じ。
でも、それであれば、もっとリーバイの葛藤を深く描いてほしかったし、ドラサと父の関係ももっと掘り下げてほしかった。じゃないと、なんかストーリーに厚みが出てない気がするのです。
でも、それも映画の目的ではなかったからかもしれないし。
wikiによればこの映画は「SFロマンチックアクション映画」とある。
普通に楽しめるので、恋人やカップルで観る映画としてはよいのかもしれないです。