作品紹介

アンソニー・ソプラノ(通称、トニー)は、ニュージャージーを縄張りとしたマフィア、ディメオファミリーの有力者であったジョニー・ソプラノの長男。血筋も実力も十分にあるマフィアであるが、ごくたまにではあるが医学的には解明出来ない原因不明のパニック症候群に悩まされ、隣人でありファミリードクターであるDr.クザマーノの勧めで精神科医・メルフィの下に通いだす。マフィアと家族、それぞれの「ファミリー」の長としてのトニーの悩みは尽きない。(1999年ー2007年 6シーズン)
ちなみに、HBOの大ヒット作で放送開始以来、エミー賞を96個のノミネート、通算17回受賞したほか、2004年にはネットワーク局(ABC,CBS,NBC)以外のチャンネルが初めてシリーズ作品賞を受賞しています。

監督デビッド・チェイス/ダニエル・アティアス他
脚本デビッド・チェイス他
制作HBO
出演ジェームズ・ガンドルフィーニ/ロレイン・ブラッコ/イーディ・ファルコ/マイケル・インペリオリ/ドミニク・キアネーゼ

登場人物

トニー・ソプラノ(ジェームズ・ガンドルフィーニ)

妻と娘と息子の4人家族。40代で成功し豪邸で暮らすが、よき夫、よき父親であろうとする反面、組織のボスとしても立ち回る。やっかいな母と同じマフィアの叔父がいて、何かと問題を起こし、家族と組織の問題などで、急にパニック発作を起こすため、メルフィという精神科医のところにセラピーに通いながら、自分の悩みや問題点を打ち明ける。

ジャームズ・ガンドルフィーニはこのドラマで人気を博し、エミー賞(3回)、ゴールデングローブ賞、俳優組合賞などで主演男優賞を受賞。「トゥルー・ロマンス」「クリムゾン・タイド」「ザ・メキシカン」など出演多数。
2013年6月19日、イタリア・シチリアのタオルミーナで開催される第59回タオルミーナ映画祭に出席するため滞在していたローマで心臓発作のため51歳で急死。

ジェニファー・メルフィ(ロレイン・ブラッコ)

精神科女医でトニーのカウンセラー。トニーの話を常に冷静に聞きながらも、トニーを診察するうちに自分でもカウンセラーにかかるようになってしまう。

ロレイン・ブラッコは16歳から『セブンティーン』誌などでモデルデビュー。
1990年の『グッドフェローズ』でアカデミー助演女優賞候補となる。
映画では「バスケットボール・ダイアリーズ」「君が、嘘をついた」などに出演。ドラマも「リゾーリ&アイルズ ヒロインたちの捜査線」に出演しています。

カメーラ・ソプラノ(イーディ・ファルコ)

料理上手なトニーの妻。ソプラノ家を支えているが、子育てや夫との関係でストレスを抱えている。派手好きではあるので、夫からの高価なプレゼントなども喜んで受け取っているが、その反面では自分が犯罪の収益で生計を立てている事に悩んでいる。トニーとの離婚も考えるが、よりを戻している。

「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア」で3度エミー賞を受賞。2003年に乳がんを患うが、現在は克服。映画では「ランダム・ハーツ」「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」ドラマでは「OZ/オズ」「ナース・ジャッキー」などに出演。

コラード・ソプラノ・ジュニア(ドミニク・キアネーゼ)

トニーの父方の叔父。通称「アンクル・ジュニア」。昔気質のマフィアで偏屈な性格。トニーとよく揉める。元々ボスになりたい願望が強かったが、トニーの計らいによって形式上のボスの座につく。

元々は舞台俳優。映画「ゴッドファーザーパートII」「狼たちの午後」、ドラマでは「ダメージ」「ボードウォーク・エンパイア 欲望の街」などに出演。イタリア系という出自からマフィアやその関係者役を演じることが多い。

リヴィア・ソプラノ(ナンシー・マーシャン)

トニーの母。認知症のせいか偏屈な性格で、トニーたちと折り合いが悪い。計算高く周囲の人間を操るような言動をする。

ナンシー・マーシャンは1951年に『じゃじゃ馬ならし』の演目でブロードウェイデビュー。舞台で活躍し、1957年の『独身者のパーティ』で映画デビュー。1977年のテレビドラマシリーズ『事件記者ルー・グラント』へのレギュラー出演でその名も広く認知され、女優としての確固たる地位を築いた。
「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア」では、常識外れの個性的ないわゆる「毒親」を上手く演じていて、2000年のゴールデン・グローブ賞のテレビシリーズ部門の助演女優賞を獲得した。
2000年6月18日、自身の誕生日を翌日に控えた日に肺癌と慢性閉塞性肺疾患の合併症により71歳で他界。

その他の登場人物(ソプラノファミリー)

シルヴィオ・マンフレッド・ダンテ( スティーヴン・ヴァン・ザント)

トニーの幼馴染であり、右腕。ファミリーの相談役を務める。トニーたちが溜まり場にしているストリップクラブ「Bada Bing!」のオーナー。汚れ仕事も進んでしたりする。

ピーター・ポール・ガルティエリ( トニー・シリコ)

通称「ポーリー・ウォルナッツ」。トニーの部下で、ジュニアの逮捕後トニーがボスに就任したのに伴い幹部へ昇進。融通の利かない堅物で、よくクリスと衝突する。案外とおしゃれで、髪の毛や靴などには凝っている。

クリストファー・モルティサンティ(マイケル・インペリオリ)

トニーの甥(正確にはカーメラの甥)。通称「クリス」。血の気が多く短気で、先走った行動が多い。早く正式なメンバーになりたがっている。脚本を書くのが趣味で、映画を作りたい欲求がある。薬の中毒になってしまい、それが元で後にトニーに殺されてしまう。

「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア」での演技は2004年の第56回プライムタイム・エミー賞助演男優賞(ドラマ部門) や、1999年と2007年の全米映画俳優組合賞アンサンブル賞 (ドラマシリーズ)を受賞。
エピソード22、35、42、45、60の脚本も担当しています。

サルヴァトーレ・ボンペンシエロ(ヴィンセント・パストーレ)

トニーの幼馴染で、ファミリーのメンバー。通称「ビッグ・プッシー」。ソプラノ家二代に渡って仕えている。FBIとの内通がバレて、トニーたち仲間に裏切り者として殺されてしまう。

アドリアーナ・ラセルヴァ(ドレア・ド・マッテオ)

クリスの恋人。ジャッキーやリッチー・アプリールの姪。後にクリスが借金のカタに奪った店を任される。暴力を振るわれ、時に喧嘩に陥りながらもクリスを支える。麻薬売買が原因でFBIに目をつけられ強制的に内通者に。クリスにそれを告白し、シルヴィオに殺されてしまう。

感想

シーズン1のサブタイトルは「2つのファミリーを持つ男」で、シーズン2からは「哀愁のマフィア」になっています。その理由は公式には発表などされていないので、はっきりとはわからないのですが、最初は試行錯誤中だったのかなと勝手に思っています。というのも、今でこそ「セックス・アンド・ザ・シティ」や「ゲーム・オブ・スローンズ」などで「クオリティのHBO」と謳われていますが、当初はまだボクシングなどのスポーツが主流でドラマは始めたばかり。それがこの「ザ・ソプラノズ」が大ヒットして、HBO自体や出演者なども大きく運命が変わることになります。

ちなみに、モデルはニュージャージー州を実際に仕切っているデカヴァルカンテ一家とされ、主人公のトニーはヴィンセント・"ヴィニー・オーシャン"・パレルモを元にしたとされています。

「家族」というファミリー

娘のメドゥは頭がよく成績も優秀。若者によくある反抗期はあるものの、しっかり者で将来のことも考えていたりする。トニーの仕事が気質ではないのも薄々気づいているが、あまり深く考えないようにはしているみたい。
シーズンの中で、大学のときに結婚まで考えた彼氏がいたものの、結局は別れることになる。別れた頃は自堕落な生活を送ってしまってたけれど、何とか立ち直る。
何不自由ない生活で、どちらかというと過保護だし、ちょっとわがままになるのは仕方ないのかも。それでもメドゥの場合はしっかり自分の道に進むので、母心としては安心。

息子のアンソニー・ソプラノ・ジュニアは、悪ガキで学校の成績も悪く、両親の悩みの種。甘やかされて育ったせいか、あまり物事を深く考えないと言うか、見ててちょっとイライラするタイプです(笑)
シーズンの後半も、人生に迷ってフラフラしていて仕事も続かないし、結局、更生施設(?)に入ってちょっと立ち直りかける。

妻のカメーラは、あまり家にいないトニーに変わり、家を切り盛りするしっかり母さん。イタリア系は美味しそうな料理がたくさん出ます。食べてみたくなった・・・。派手好きなので、トニーのご機嫌取りの高価なプレゼントを喜んで受け取る反面、犯罪の収益というところに悩んでいたりする。
トニーから自立したいと願うけれど、トニーはなかなか許してくれなかったりする。トニーも、そこは亭主関白的なところがある。また、トニーは浮気するんですょ。カメーラとしては、やはり浮気は許せない。そりゃそうでしょ!と思うけれど、トニーは浮気はやめないのよね。それが、カメーラがトニーと離婚したいと思う一因になっていく。

そして母のリヴィア。この人がまぁ、独特で、トニーを傷つけるようなことを平気で言う。それはトニーだけじゃなく誰に対してもなのだけれど。この人物の性格にはモデルがあって、監督のデヴィッド・チェイスの実の母親がモデルだそうです。実際にこんな母親がいるなんて、と思うのだけれど、この難しい役を見事に演じているナンシー・マーシャンが凄いです。

そしてそして、叔父のアンクル・ジュニア。元々ボスの地位を狙っていて、時にはトニーと対立するけれど、表向きのボスになり一まずは落ち着く。認知症になり最後は施設に行くことになる。

トニーにはジャニスという姉がいて、この人も一癖二癖あってトニーの悩みのタネの一つ。でも基本的にはトニーは家族は大事にしていて、そこが何だか憎めないところ。
個性的な家族の反抗や問題が、トニーにパニック発作を起こさせることにもなるのだけれど、そのために通うことになるカウンセリングで出会ったメルフィさえも口説いたりするのはちょっといただけなかったりする。

そういう「マフィア」という世界に身を置きながらも、家庭では妻や子どもの問題がリアルな日常的で、共感ができるところがこのドラマの魅力の一つ。トニーがメインでありながらも、家族のそれぞれが持つ悩みにも共感できるし、それがあまり突飛じゃなくていかにも「ドラマ」的でないところもいい。

「組織」というファミリー

家庭ではありそうな日常で共感できるけれど、「組織」というファミリーではやはり「ゴッドファーザー」のような事が起こる。裏切り者には死があるし、自分にとって邪魔だったり、また実際にはそうでなくても、疑心暗鬼になって手を下したり。いきなり後ろから銃で撃ったりするので、やはりその世界の怖さは感じた。
仲間にも容赦ないし、特に甥のクリスとアドリアーナ。
二人の事はショックだった・・・。クリスはコカインにはまってしまって仕事もしくじったりするからアブナイ感じだったけれど、何とか立ち直りかけてたところで・・・っていう感じだったし、アドリアーナも裏切ったとはいえ、もしかしたら、逃がしてあげるのかな、と思ったけれど、やっぱりそうなんだ・・・という感じで。

叔父のアンクル・ジュニアとの確執や、出所してきた父親の頃の仲間やニューヨークのマフィアとの駆け引きと対立。シーズンを通してゆるいところといつ誰がやられてしまうのかという緊張感で観ていて飽きない。
最初はコメディタッチな感じかなと思っていると、「マフィア」の暴力の世界もそこにあって、それもリアルさがあるから余計に人を惹きつけるのかもしれない。

「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア」の魅力

ただのコメディタッチの話だったら、これほどヒットしなかったかもしれない。仲間にカウンセリングを受けていることを隠しながらの行動がコミカルだったり、家族や仲間の行動もクスッと笑ってしまうところもあって面白い。特にトニーの側近のシルヴィオやポーリー、クリスは個性的。独特のキャラで物語の緊張を解してくれる。その反面、「マフィア」の実態みないなものも描かれていて、その2面性が魅力の一つ。

人間には2面性があるというけれど、トニーだけではなく、本当はみんなにそれがあって、常に葛藤を持ち続けているのが人間というものなのかもしれない。
だから家庭でのいざこざには共感もできるし、その暴力も「マフィア」としては納得してしまう説得力がある。(決して肯定はしないけれど)
ドラマだから大げさな部分もあるかもしれないけれど、基本的にはその2面性こそがリアルに近くて惹きつけられる。

大ヒットしてキャストたちをスターにした「ザ・ソプラノズ哀愁のマフィア」。当初はみんなこれがそこまでヒットするとは思っていなかった。瞬く間にスターになり、トニーを演じるジェームズ・ガンドルフィーニは、それこそ葛藤を感じていたようで。
連続ドラマの主役というのは本当に大変というのはよく聞く話。朝早くから夜遅くまで撮影があり、それが延々と続く。役柄と本当の自分との境界線が曖昧になり精神的に不安定になる場合もある。
ジェームズも撮影中、何度もやめたいと漏らしたり、実際に数日間行方をくらますこともあったという。それほど重圧もあるし過酷なんだろうと思う。だからドラマのメインでもよく降板したりするのは、全てではないにしても、そういう理由もあるのかもしれない。「仕事でしょ」と言えばそれまでだけれど、「スター」という称号を得るための代償は、観るものが思うよりも大きいのかも知れない。

また、登場人物が多く、駆け引きや攻防などスリリングな展開も多いのも魅力。誰が生き残るのかハラハラドキドキです。

「ザ・ソプラノズ哀愁のマフィア」はシーズン6で終了しますが、その最終回は賛否両論で物議を醸しました。家族が集まる行きつけのレストランで何とも不穏な空気が。もしかしてここで撃たれてしまうのか?!というところで場面は暗転し、そのまま終わる。
実際に撃たれたりする場面はなく、トニーだけが撃たれたのか、家族はどうなったのか、何もわからずその解釈は観るものに委ねられました。まぁ、もしもトニーが死んだとしても、その場面は観たくないというのが本音。

シーズンの最初ではトニーの家のプールに鴨が住み着き、トニーがその様子を嬉しそうに見つめたり、鴨にえさをやったりするコミカルな場面で始まったのに、終わる頃には「マフィア色」が強く、結局はそれっぽい最後を想像させるところでジ・エンド。何とも切ない結末が、また後を引くというか。

51歳で他界したジェームズ・ガンドルフィーニ。もしトニーが死んだということであれば、それはドラマの主役として葛藤し苦しんだジェームズのためでもあったのではないかと勝手に思ったりしています。トニーが死んだということであれば、もう再演はないし、これで本当に最後になるわけで。
ジェームズは自分の葛藤や苦しみをトニーを通して表現していたのかもしれないし、それがまた、自分とトニーの距離をさらに近くしたのかもしれない。「トニー」がはまり役過ぎと思うほど見事な演技で、それが一番の魅力です。

まだ観ていない方は、ぜひ一度は観てほしいドラマです。

オープニング曲

Woke Up This Morning-Alabama3
このオープニング曲も大好きで、この局が流れると「ザ・ソプラノズ」の場面が次々と浮かびます。
いいドラマにはいい曲あり。