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作品紹介
ある日突然、隣人宅で住込みの家事手伝いをしていた留学生のルビーが姿を消す。ルビーから失踪前に相談があると聞かされていたセシリアは責任を感じ、自ら調査に乗り出す。(全6話 2025年)
監督 | ペール・フライ |
脚本 | インゲボー・トップソー/アイナ・ブルーン/マッズ・タフドルップ |
出演 | マリー・バッハ・ハンセン/ダニカ・クルチッチ/ラース・ランゼ/ サイモン・シアーズ |
登場人物
セシリエ(マリー・バッハ)
海や森に囲まれた邸宅に住むセシリア。何不自由なく暮らすセシリアだが、出産してひどい産後うつ状態に。そのせいで、長男とも心が通じず悩んでいる。隣の家と気軽に行き来する関係だが、隣の留学生ルビーの失踪に責任を感じ、真相を突き止めようとする。
カタリナ(ダニカ・クリチッチ)
セシリアの隣に住む友人。夫がセシリアの夫の大口顧客で親しくしている。お互いの家をカギなしで行き来している。子どもは放ったらかしだが、自分は良い母親だと信じている。
ラスムス(ラースランゼ)
カタリナの夫の大口顧客で隣に住む。自分の家の留学生が失踪したのに、事態をあまり重く見ない。大邸宅に住んでいるが、留学生のルビーを地下の部屋に住まわせていた。
マイク(サイモン・シアーズ)
カタリナの夫。大手弁護士事務所のパートナー。ラスムスは大口顧客で、言いなりな感じになっている。
アイシャ(サラ・ファンタ・トラオレ)
新任の刑事。鋭い観察眼で事件を解決に導く。
エンジェル(エクセル・ブサーノ)
セシリエの家のオペア留学生。故郷に息子を残してきたことを隠しているが、後にカタリナに知られてしまう。ルビーの失踪を心配し、同じ留学生の仲間たちと捜索活動をする。
ルビー(ルナ・レヴコヴスキ
カタリナの家のオペア留学生。地下に住まわされている。セシリエに助けを求めるが拒否され、失踪、遺体が見つかったが自殺と判断されてしまう。
オペア留学とは
このストーリーは、フィリピンからの留学生の失踪という、サスペンスかと思いきや、「オペア留学」という制度が一つのカギになっています。
オペア留学とは
ホストファミリー宅で子どものお世話や家事を手伝いながら、海外で生活する留学方法です。オペアは、ホストファミリーの家で住み込みで働き、その見返りとして、滞在費、食費、そして給与(手当て)をもらうことができます。また、空き時間には、語学学校に通ったり、旅行したりするなど、海外生活を楽しみながら、語学力を向上させることができます。(AIによる概要)
一見、よさそうな留学にみえますが、その実態は現在、物議を醸しています。
デンマークでは40年以上前から導入されている制度であるが、その制度の見直しや廃止が唱えられている。その理由としては、オペアの出身国の約90%がフィリピン人で、オペアの雇用者の多くが年収2000万円以上の裕福な家庭であることや、異文化交流目的ではなくキャリア志向の女性の権利やワークライフバランスを守るために、安い労働力としてメイドのような形でオペアが利用されていることが挙げられた。デンマークのオペアは、食事と住居付きであるが月30時間の労働に月額67000円(税引き前)というもので、これは労働力の搾取であり制度の悪用であるという意見もある(Wikiより抜粋)
年収2000万円以上といえば、裕福で海や森に囲まれた邸宅で何不自由なく暮らせる身分。そんないわゆる富裕層の主に女性の社会進出によって、なかなか追いつかない子育てや家事の手助けを安い労働力で手助けさせるというのがオペア留学。
何の不自由もない富裕層であるのにも関わらず、家の掃除や洗濯、食事の用意、片付け、子どもの送り迎えなどの世話、すべてを任せ、けれどその報酬は低い。しかも、待遇はホストファミリーによっても違い、ルビーは地下に小さな部屋を与えられているだけ。そういう背景を知って観たほうが、この映画の問題をより深く知ることができると思います。
ルビー失踪事件
ストーリーは海をバックにセシリエの背中がアップになり、振り向く姿から始まります。
森や海に囲まれた豪華な邸宅でオペア留学生のエンジェルと家事をするセシリエ。
エンジェルに家事を手伝ったもらいながら仕事もこなす忙しい日々を送るセシリエですが、実は二人目の出産でひどい産後うつになり、入院していた過去がありました。
そのことで、長男のヴィゴとはギクシャクした関係になってしまい、悩んでいます。
一方、隣家のカタリナは自由奔放な感じで好き放題。息子のオスカーなど放ったらかしなのに、自分が批判されると異常なほど怒りをぶつけます。父親のラスムスも仕事が忙しく出張などで家にはおらず、オスカーは人知れず歪んでいく。
隣家のカタリナとラスムスとは家族ぐるみの付き合い。お互いの家を気軽に行き来し、夕食なども一緒にする仲です。
そんなある日、カタリナの家のオペア留学生ルビーが、セシリエに助けを求めます。「あの家にはいられない」と。
でもセシリエは、カタリナに相談するよう諭します。その次の日、ルビーが行方不明になり、責任を感じたセシリエは真相を突き止めようとします。
格差社会の問題
このストーリーはドラマ「セイレーンの誘惑」に似たところがあります。こちらも富裕層の格差社会の問題点が描かれていましたが、こちらはそれをもう少しリアルな現実問題として焦点を当てたドラマのように思えます。
フィリピンの貧困層だと思われるルビーとエンジェル。オペア留学の条件として「独身」であることが掲げられているので、子どもを置いて嘘をついて留学したエンジェル。フィリピンにいる自分の妹に子どもの面倒を見てもらっています。
それでも自分のお店を持つ夢を持ち、勉強しながら家の家事や雑事の全般を担っています。
そんなエンジェルをセシリエは優しく接していますが、一方カタリナはルビーを地下室に住まわせ、何でも任せているのに、ただのお手伝いさんのような扱いしかしていない。ルビーの名字も覚えていないのです。
カタリナやラスムス、夫のマイクは、ルビーが居なくなっても気にもとめない様子で、セシリエだけがルビーを心配して警察にも相談したりするのですが、マイクはラスムスにそういうセシリエの行動を逐一報告するんです。このあたりが富裕層仲間の結束というか。思うに、「富裕層」の人たちというのは、本当にこんな感じなのかな。
映画やドラマでは、よくお金持ちの人って傲慢というか、人を見下すというか、そういう感じに表現されるのだけれど、そういう表現が多いということは、実際にそういう人が多いということなのか。
セシリエも間違いなく「富裕層」側なのだけれど、カタリナやラスムス、マイクとは違う考えを持っているように見えます。
ルビーの死の真相
結局、ルビーは遺体で見つかります。警察は「自殺」とみていて、カタリナたちは一件落着にしようとします。けれど、新任刑事のアイシャやセシリエは、真相を突き止めようとします。ルビーが妊娠していたり、マイクと親しかったり、一つ一つの糸口を拾っていくと、自分の息子のヴィゴと、カタリナの息子オスカーに関わりがあることに気づくのです。
理想と現実
真相がわかり、今までの生活を見直そうと、セシリエはエンジェルを解雇します。
3ヶ月分の給料やフィリピンに帰る旅費、開業に必要な資金も含めてお金を渡しますが、ひどくショックを受けるエンジェル。
エンジェルは、フィリピンに帰りたくないわけです。多分、今は仕送りをしていますがゆくゆくは子どもをこっちに呼んで、開業したい、そのためには今の仕事が必要なわけです。オペアを辞めたくない。
けれど、セシリエはフィリピンに帰って子どもと暮らしたほうがいいと思うわけです。でも、それは結局は富裕層たる立場の人の傲慢さでしかない。
オペアの廃止を訴える声がある一方で、オペア留学を必要としている人たちもいるわけで、何とも言えないジレンマを感じます。フィリピンからオペア留学に来る人達にとってはそれはチャンスなのかもしれない。
カタリナがしきりに言っていた「彼女たちはここで男をみつけたいのよ」みたいなセリフ。確かにそういう思惑もあるのかも。貧困から抜け出し、あらたな人生を歩めるかもしれないチャンス。彼女たちにとっては、オペア留学はそういう機会でもあるのかもしれない。
それがいいとか悪いとかではなく、労働力としてオペア留学があるならば、彼女たちの立場や待遇をもっと向上させなければ、このドラマのように使い捨てみたいなことになったり、性暴力の対象になってしまうことになりかねない。
オペア留学を利用する富裕層の人たちの考えも変わってほしいと思います。
最後に驚愕の真実が明らかになり、場面は最初のセシリエの背中が写され、振り返るシーンになる。最初と最後が繋がってるんですね。
子どもたちの思春期の性の問題、殺人、オペア留学の問題点など、いくつもの要素が絡み合って、考えさせられるドラマになっていました。結局、解決せずに終わるのがもやっとするところではありますが。
唯一、富裕層の中ではまともだと思われたセシリエも、その世界からは抜け出せないだろうけれど、願わくば、真実を暴いてほしいなと願ったりするワタシです。