映画『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』感想/テーマは恋愛かDVか

■洋画
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作品紹介

理想のフラワーショップを開くという夢を実現すべく、ボストンにやってきた若き女性リリー。そこでクールでセクシーな脳神経外科医ライルと情熱的な恋に落ちる。
幸せで穏やかな日々を過ごす二人だったが、リリーを大切に想うライルの愛は、次第に望まぬ形で加速してゆく…。それは彼女が封じたかつての記憶を呼び覚ますものだった。
自分の信じる未来を手にするため、リリーは過去の自分自身と向き合い、ある決意を胸にする。(2024年)

監督ジャスティン・バルドーニ
制作総指揮コリーン・フーヴァー
脚本・プロデューサークリスティ・ホール
出演ブレイク・ライブリー/ ジャスティン・バルドーニ/ブランドン・スクレナー/ジェニー・スレイト
イザベラ・フェレール/アレックス・ニューステッター

出演者

ブレイク・ライブリー

主人公のフラワーショップの開業を夢見るリリー・ブルームを演じたブレイク・ライブリーは「ゴシップガール」で脚光を浴び、「アデライン100年目の恋」「ロスト・バケーション」「リズム・セクション」など恋愛ものやスリラーなど多様な役をこなしています。
今回の映画「ふたりで終わらせるIT ENDS WITH US」は大ヒットはしたものの、監督・共演したジャスティン・バルドーニと泥沼の訴訟問題を抱える事態に。早々に決着とはいきそうになく、それこそ、早く「ふたりで終わらせて」欲しいものです。

ジャスティン・バルドーニ

「ふたりで終わらせるIT ENDS WITH US」では監督・主演。ライルはリッチな脳外科医だけれど、実はDVの加害者という役どころ。俳優としても数々の出演作がありますが、「ファイブ・フィート・アパート」(2019年)や「クラウズ」 (2020年)の監督も務めています。

父親のDVがトラウマになっているはずだけど何だか薄い

映画は、リリーが父親の葬儀で実家に帰ってくるところから始まります。母親に弔事を頼まれるけれど、父親のいいところが思い浮かばず、教会から立ち去るリリー。その理由は、父親の母親に対する暴力。どういう暴力だったのかは徐々に明らかになるのですが、何だか深みに欠けるというか。
全体を通して観ても、自分自身が父親から暴力を受けたわけではなく、母親への暴力や、初恋の人アトラスへの暴力(死にそうなほど殴られてしまう)で、もちろんそれはトラウマにはなるのだろうけれど、掘り下げ方なのか、表現方法なのか、なんだか感情移入がしにくいというか。

教会から立ち去った後、高級アパートの屋上でリリーが落ち込んでいると、ライルがやってきて、リリーに気づかずそこにあった椅子を乱暴に蹴ります。リリーに気づき、謝るライル。そこから二人の会話が始まり、ハンサムなライルは自信満々にリリーを口説きますが、リリーは父親のことがトラウマで男性に対して慎重になっている・・・はずが、そこから、何だか恋の駆け引きみたいな感じになっていくんですね。
ブレイク・ライブリーだからでしょうが、ファッションが「フラワーショップを夢見る」素朴な女性ではないし、招待されたパーティでは大胆なドレスに身を包み、明らかに誘ってる感で。リリーの背景に既にDVのトラウマがあるようには思えない。全体の雰囲気も綺麗すぎて、普通に「恋愛映画」という感じに思えて。
DVをテーマにしているなら、暗い感じじゃないといけない、と思っているわけではないけれど、何だかいろんなものがぼやけてしまって、大事なことが伝わらないというか。

ライルは本当にDV男なのか?

初恋の人アトラスと再会し、心が揺れるリリー。それでも心変わりはないのだけれど、アトラスのことを知ったライルは、怒り、それを鎮めようとしたリリーを階段から突き飛ばしてしまう。

リリーとアトラスは、お互い家庭内暴力の家庭で育ち、同じ傷を持ち、段々と絆を強めていく。二人の関係を知ったリリーの父親が死ぬほどアトラスを殴って二人は別れる事になったけれど、絆は昔のまま固いんだと思う。
けれどライルにはそれが嫉妬や怒りの対象でしかない。

ライルも、本当のところはいい人なんだろうけれど、子供の頃、誤って銃で弟を撃って死なせた過去があり、それが原因で暴力的なところがあるようなのだけれど、それも掘り下げが足りなくて、最後の方で、ライルの妹のアリーシャから経緯が語られるだけで、安易に着地させてる感。
リリーも、階段から突き落とされたり、性暴力をうけたりして、別れる決意をするのはいいけど、妊娠して、ライルにベビーベッドの組み立てをしてもらったり、出産に立ち合わせたり。自分に乱暴した男に、いくら父親と言えども、そんなことができるのだろうか。
ライルも、「やりなおそう」と一度は食い下がるが、リリーに拒否されてあっさり諦め、最後は何だかいい人みたいな感じになるので、何だかリアルさがなくて、ホントに「ドラマの世界」という感じに思える。

「ふたりで終わらせる」の意味

とはいえ、DVの被害者は、自分が被害者ということを受け入れられないか、受け入れるのに時間がかかるので、リリーも最初は自分の中でぼやかして「事故」と思っていて。それが段々、「暴力」なのだと気づいたときにライルとの別れを決意する。そのあたりの描写は上手いと思ったので、余計にそれまでの展開が惜しいというか。
「二人で終わらせる」というのは「暴力の連鎖」。ライルが「やりなおしたい、セラピーも受ける」といった時、心が弱っかたら、それを「愛」と信じたなら、そこで「YES」と言ってしまう展開もあると思うけれど、それでは、また同じことの繰り返しになるだけで、その連鎖を断ち切れない。
そこまでの強い勇気と意志をリリーに持たせたのは誰なのか、「ふたり」の意味は最後にわかります。

映画「ふたりで終わらせるIT ENDS WITH US」は、「恋愛映画」として観るのはいいかもです。
ハンサムな脳外科医ライルとの出会いから恋の駆け引き、おしゃれなファッション、リリーの夢だったフラワーショップ、そしてライルとの結婚。そんなときに出会う、今も心に残るアトラスとの再会。心が揺れ動くリリー。
けれど、そこにDVという問題が加わったなら、DVの被害者と加害者の関係や実態をもっとリアルに表現してもよかったのではないかと。

DVのことは、自分が経験者でもないし、周りにそういう人がいるわけでもないし、テレビのニュースやそれを扱ったドラマなどを観たことがあるだけで、この根が深い問題に対して偉そうなことも言えないのだけれど、だからこそ、私みたいな人がこの映画を観たときに、この問題に対して考えるきっかけになるようなリアルさを表現してほしかったというのはあります。
もちろん、この映画のように、暴力の連鎖を自分自身で断ち切れる強さを持つことは理想的ではあるけれど。

映画は大ヒットしたけれど、賛否両論でしかも監督と主演がお互いに提訴しあうという泥沼。
撮影中も険悪だったというから、この内容の原因がそういうことにも一端があるならちょっと悲しいですね。

主題歌はテイラー・スウィフトの「My Tears Ricochet」