作品紹介
超一流の殺し屋“ジャッカル”は、ミュンヘンで3815mもの遠距離にいるドイツの次期首相候補マンフレートを狙撃するという困難な暗殺を成功させる。そんなジャッカルに新たな依頼が届く。今回は、IT起業家UDCことウレ・ダグ・チャールズの暗殺だ。彼はあらゆる資金の流れを透明化する“リバー”というソフトウェアをリリースしようとしたことで物議を呼んでいた。
一方、英国秘密情報部(MI6)の捜査官ビアンカは銃器に詳しく、ミュンヘンでの狙撃に使われた特注の高性能ライフルを手掛かりに犯人を追い始める。協力者から情報を得ようとするが、予想外の事態に陥り…。
原作 | フレデリック・フォーサイス |
プロデューサー | クリストファー・ホール |
製作総指揮 | ガレス・ニーム/ナイジェル・マーチャント/エディ・レッドメイン |
出演 | エディ・レッドメイン/ラシャーナ・リンチ/ウルスラ・コルベロ |
日本語訳なし
感想
英国の作家フレデリック・フォーサイスの人気小説をもとにしており、1973年の映画版ではエドワード・フォックスが主演。冷酷な殺し屋を演じていました。
「ジャッカル」関連では、他にブルース・ウィルスとリチャード・ギアが出演して話題になった「ジャッカル」があります。こちらは、エドワード・フォックス版を元に翻案したものということです。
今回のエディ・レッドメインのジャッカルは、ドラマということもあって、自身も制作に加わって、エドワード・フォックス版を意識しながらもオリジナリティもある感じになっています。
エディ・レッドメイン
エディ・レッドメインは、「博士と彼女のセオリー」でアカデミー主演男優賞を受賞したことで有名。
他に「リリーのすべて」や「グッド・ナース」などで個性的な役の他に、「ファンタスティック・ビースト」シリーズでもまた違ったエディが観れますね。ちなみに、エディは「ハリー・ポッター」でトム・リドル役のオーディションに落選した経験もあり。また、日本の高倉健が主演した「幸福の黄色いハンカチ」のアメリカ版「イエロー・ハンカチーフ」で、武田鉄矢が演じた役をやってたりして、比べて観てみるのも楽しいです。
プライベートも、高校生から知り合っていたハンナ・バグショーと結婚。ずっと友だちだった関係が発展していくのって、なんだか憧れ。派手なショービズの世界で、地に足がついていて、エディの人柄も伺えます。
レッドメインの「ジャッカル」
エドワード・フォックス版もブルース・ウィルス版も観ていたので、今回のエディ・レッドメインのジャッカルも楽しみでした。過去作は、どちらも「ジャッカル」は冷酷で容赦ない殺し屋に描かれていて、変装がうまくて何事にも抜かりない。
エディ版の「ジャッカル」も、1話からこれからの殺しの前段階に入っているのですが、最初は「それ」とはわからず。老人がテープを聞ききながら、声の真似をしている。そして準備が終わって部屋を出るようになってから、観ている者はその同じ老人が死んでいることを知る。
「だったらこの男は何者なのか」ーその先を固唾をのんで観ることになる。
清掃員に扮した男は、目的地に着くと荷物から銃を出し、そこの警備員や従業員を次々に殺して標的に近づき、そして、何故か殺さず足を撃ち、立ち去る。
その後、コンタクトレンズを外し、かつらを取り、ここで初めてそれがジャッカル(エディ・レッドメイン)と知る。
ここまで、結構衝撃的な展開。
撃たれた男は次期ドイツ首相候補のフェスト氏の息子で、息子が入院している病院に見舞いに行く。
それと同時に、銃を淡々と組み立てていくジャッカル。スコープから病院をみると、厳重な警備。
まばたき一つせずに、試射を二回。撃った音から壁にあたるまで時差があることで、距離が長いことがわかる。
そして本番。病院に着いたフェスト氏が中に入っていくと同時に撃たれて死亡する。
警察が動く頃には、ジャッカルはすべての証拠を処分し、姿を消す。
ここで驚くのは、本当の目的のために何が必要か計算して達成していること。
清掃員になって建物に入り、息子の足を撃ったのも、何もかもフェストを仕留めるため。
そしてMI6の登場。ジャッカルを執拗に追うビアンカを演じるのはラシャーナ・リンチ。
「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」の出演が有名。
ビアンカは射撃の距離が3,815メートルだったことを知る。
いつも、もう少し、っていうところでジャッカルに逃げられてしまうのですが、ビアンカの存在が、段々とジャッカルを追い詰めていくところもヒヤヒヤして見応えがあります。
冷酷な殺し屋と家族を愛する一人の男
過去作と同じように冷酷に淡々と人を殺して目的を果たすジャッカル。
シーズン1の10話を通して、ジャッカルの無表情に人を殺していくさまは、観ていてゾッとします。
けれど、ジャッカルには妻と子どもがいるのです。これにはびっくり!
原作は読んでいませんが、映画の過去2作は、「孤高の一匹狼」といったところで、恋人さえいなかった。
それが妻も子どももいるって、正直、「殺し屋には家庭は無理っしょ」と思ってしまった。
案の定、最初は何とかごまかしていたものの、結局は妻に自分の素性を告白する羽目になり、ややこしいことになっていく。
それは、「ドラマ」としてはありなのかもしれないけれど、ワタシ個人的には、ジャッカルには独り身であってほしかった気が。というのも、エドワード・フォックス版では、関係を持った女性でさえ、自分の身を守るための道具として利用し、危険になると殺してしまったりして、本当に冷酷に描かれていて。
それは「映画」ということもあるかもしれない。尺があるので、ジャッカルの人間的な部分にはほとんど触れていないし、深堀りもしていない。あくまで「凄腕の殺し屋」。
だから最後に警察に銃撃されても、「そりゃそうだよな」と納得できるし、実際に人を愛する気持ちがある人が、同時に人を殺すことができるのだろうかと。
そこの葛藤を描くのも、今回のドラマのポイントなのかもしれない。
大邸宅に住み、美しい妻と1才になったばかりの息子。家族を愛してやまないジャッカルは、大きな仕事の依頼を受け、それを最後に足を洗おうとする。けれど、この仕事の依頼により、よき夫、よき父親の仮面が剥がれていくことになり。
10話の中で、妻のヌリアとの馴れ初めや、どうして殺し屋になったかの過程も描かれています。
長距離狙撃の凄さ
ジャッカルの凄いところは精度の高い長距離狙撃。1000メートルは当たり前で、3815メートルもの狙撃を成功させます。
「確認されている遠距離狙撃の世界記録は、2017年、カナダ軍の特殊部隊所属のスナイパーがイラクでイスラム国(IS)の兵士を射殺した3540メートル」だそうで、それよりもジャッカルのほうが距離が長い設定って・・・。
訓練された狙撃手は、1000メートルくらいはお手のものらしい。けれど、2000メートルを超えるとそこには、特別な能力が必要になる。
長距離になればなるほど、狙撃してから標的まで数秒かかるわけで、それまでに相手がしゃがんだり、障害物があったりすれば、命中しないことになる。
距離が2300メートルの場合、射撃する際には「地球の自転、銃口を向ける方向、そして風の影響。銃口のすぐ先に吹く風だけじゃなくて、2300メートル向こう、さらにはその間の1000メートルあたりに吹く風も計算に入れる」という。
参考ページ:https://www.businessinsider.jp/article/197748/
「ワタシの知らない世界」としか言いようがない・・・
ビアンカの執念
ビアンカは、仕事優先のMI6なんだけれど、彼女も夫と娘がいる。
MI6とはイギリスの秘密情報部。いわゆるスパイ。
こちらも、仕事と家庭の両立は難しい。
仕事優先だから情報屋の娘を誤って死なせてしまうのだけれど、あくまで情報優先で情報屋を利用しまくり、結局はこれもまた死なせてしまう。その挙げ句、家に襲撃されて、家庭も崩壊寸前。
しかも、MI6の中に情報を漏らしているものがいるとわかり、誰を信用していいかわからない状況に。それでもジャッカルを追い続けるビアンカ。
ジャッカルを追うのは、原作では男性で警視ルベル。今回は女性のMI6ということでその設定も大きく変わっています。
夫と娘を愛しながら、それでも仕事を優先させてしまうビアンカもまた、葛藤を抱えていて。
もしかしたらジャッカルとビアンカは似ているのかもしれない。
ジャッカルも元は軍の特殊部隊にいて国に仕えていたわけで、何かが違っていたら、もしかしたら同じ側の人間になっていたかもしれない。
シーズン1でのジャッカルの最大の目的
海外ドラマ「ジャッカルの日」シーズン1でのジャッカルの最大の目的はウレ・ダグ・チャールズ(UDC)。
UDCは、お金の流れがわかる「リバー」を開発し、それを公開しようとしていた。それを阻止しようとウィンスロップがジャッカルにUDC暗殺の依頼をする。
UDCが「リバー」を発表する会場に忍び込み、2日間そのじっとその場でその時を待つ。
スナイパーが何日もその場でじっとタイミングを待つ、という話は他の海外ドラマや映画でも聞くけれど、それを自分に置き換えると絶対不可能・・・。でも、このときは邪魔が入り失敗してしまう。
結果的には目的を果たすのだけれど、それまでの過程でジャッカルはかなりビアンカに追い詰められて怪我をしたり、拉致されたり、案外と完璧ではない姿もあり、それがまたハラハラドキドキで。
不思議なもので、ビアンカよりジャッカルの味方になってしまうのょ。
また、ジャッカルの正体を知り、一時はそれを受け入れたかに見えた妻のヌレアは、最後に黙ってジャッカルから姿を消します。自分の兄がギャングと関わりがあると知って、ジャッカルに助けを求めながら、結局は逃げちゃうというのは、なんだかなと思ったけれど、まだ小さい息子を思うとこの先が不安だったからかなと。
やっぱり子どものことを思うと、そうするしかないのかもしれない。
シーズン1からシーズン2へ
シーズン1を通して、エディ・レッドメインの演技力が凄かった。
どういう人にも変装してしまうし、冷たい表情の殺し屋から、爽やかな青年、しょぼいおじさん、家族を愛する夫の顔と、多彩な役どころを自然に演じてしまう。
特に、標的を狙っている姿は、かっこいいとさえ思ってしまう。
また、追い詰められて苦しむ姿や、家族への葛藤など、人間らしい面も繊細に演じていた。
けれど、やっぱり思うのです。ジャッカルは「いい人」ではあり得ない。
一人の家族を愛する男の面は確かにあるけれど、「殺し屋」を生業にしている以上、そこに葛藤や苦しみがあるにしても、ジャッカルは「殺し屋」以外にはなれない気がするのです。
映画の過去作では二作とも、最後にジャッカルは死ぬことになるのですが、今回はドラマだし、どうなるのか。
何シーズン続くかはわからないですが、忙しいエディがそこまで長くドラマをするようには思えない。
それでもシーズン2では、UDCへの成功報酬を払わなかったウィンスロップとの攻防がありそうだし、ヌリアを探すと言っていたから、そこからどうなるのか。
ウィンスロップと繋がっているMI6はどうなっていくのか。
見どころはたくさんありそうで今から楽しみです。
オープニングテーマ曲
Celeste – This Is Who I Am
セレステのハスキーで気だるそうな歌声が、「ジャッカルの日」のオープニングのイメージとピッタリです。
この歌の歌詞がまたよくて、「これが私です」というタイトルもぐっときます。