映画『おもかげ』感想/子どもを失った母の喪失と再生

■洋画

作品紹介

エレナは離婚した元夫と旅行中の6歳の息子から「パパが戻ってこない」という電話を受ける。ひと気のないフランスの海辺から掛かってきた電話が、息子の声を聞いた最後だった。10年後、エレナはその海辺のレストランで働いていた。ある日、息子の面影を宿したフランス人の少年ジャンと出会う。エレナを慕うジャンは彼女の元を頻繁に訪れるようになるが、そんな2人の関係は、周囲に混乱と戸惑いをもたらしていった――。これは、暗闇から光へ、死から生へ、罪悪感から赦しへ、そして恐怖から愛へと少しずつ歩み始める、ひとりの女性の再生の物語。(2020年)

監督ロドリゴ・ソロゴイェン
脚本ロドリゴ・ソロゴイェン
出演マルタ・ニエト/ジュール・ポリエ/アレックス・ブレンデミュール

感想

この映画は、ほぼワンシーン・ワンカットで描いた約15分の短編映画「Madre」の10年後を描いた作品。
父親と一緒だったはずの6歳の息子が、一人ビーチに置き去りになり、父親の携帯でエレナに連絡してくるのだが、見知らぬ男に捕まってしまったようなところで電話が切れる。そこからエレナは大きな喪失と罪悪感で苦しむことになる。

10年後の最初に、ビーチが出てきて、遠くでエレナが歩いている。最初はエレナはとても小さく写っていて、海のほうが全面に映し出されている。海は遠浅でおだやかだけれど、遠くでは高波が立っていて、それはもしかしたら、何事もないように生活しているけれど、心は常に波立っているエレナを表しているのかもしれない。
そして、カメラは段々とエレナに近づき、息子のおもかげを纏うジャンに出会う。

色々な要素を彷彿とさせる展開

二人が心を通わせ、ついにリーバイは、東棟のドラサの元に行き、よくある男女の流れに。
そこから、「スリラー」の部分が展開していきます。
1940年代から始まっていた軍事実験が失敗し、人間がその毒に侵され、悲惨な状況に。
それは何だか映画「アナイアレーション」やドラマ「The Last Of Us」を思わせるような展開。
また霧の中から「それ」が出てくる感じは「ミスト」にも通じるような。

そう思うと、映画やドラマの中で、いろんなアイデアというのはもう出尽くしているのか。
「エイリアン」が公開されたときは、それは斬新で、また、女性が戦うというところで、それまでの映画とは一線を画してた。それ以降のエイリアンにはあまり魅力を感じない。(個人的に)何をやっても二番煎じになってしまう。


ただ、実験の失敗で毒に侵され、木の一部になってしまったような人間の塊を見たときには、なんとも言えない悲哀を感じた。凶暴であるとはいえ、もう何十年もその場で苦しそうに息をするその姿は「エイリアン」で卵を産み付けられた人間のそれとよく似ている。
これがこの谷の外に出てしまえば、この地球の存亡にも関わることになる。爆破してしまえばいいものを、人間の「欲」はそこで終わらず、実験を続けるために「監視」が必要だったのだ。
最後にはお決まりのように、谷は爆破されるのだけれど、これを外に出さないためもあるが、かつては人間だったひとたちへの最後の「情け」的な部分もあってほしいと個人的には思った。