映画『リバース 過去の代償』感想/過去に戻ってもやり直しはきかない

■洋画
スポンサーリンク

作品紹介

毎晩のように飲み歩き、同僚とも浮気をしていた一児の母であるヒロイン。挙句には飲酒運転の事故で息子を死に追いやり、夫、家、仕事と、すべてを失ってしまう。正気を保てなくなった彼女は、謎めいた研究所から過去を変えるチャンスを与えられるが、薬の副作用なのか不眠が続き、何度もフラッシュバックに襲われてしまう。息子を救うために支払わなければならなかった恐ろしい代償。繰り返される悲劇が精神を蝕んでいく…。それでも彼女は進むのか、それとも過去に戻り続けるのか?(2024年)

監督ジム・イーブス
出演コリーン・ウィックス/コリン・ベイカー

感想

「時間」ものが続きますが、こちらは、毎晩のように飲み歩き、不倫もしていて、家庭を顧みないアーリン。
一人息子がいるものの、家事や息子の世話を夫に任せてやりたい放題。
ある時、会社の同僚に誘われて飲みに行き、その帰りに息子を迎えに行って事故にあってしまいます。そして息子はそのまま亡くなってしまい、夫や仕事も失い、喪失感と罪悪感に苛まれて精神が不安定になったところに、怪しげな施設のチラシを持った男に出会います。
わけのわからないまま、施設に行くアーリン。そこは、過去に戻れるという施設で、与えられた薬を飲むと、もがき苦しみ、死んだかのように思えたアーリンは、自分の家のソファで、息子を死なせてしまったその日に戻っていた。

そして、同じ過ちを冒さないように慎重にその日を無事に過ごすアーリン。けれど、その日から、眠れないようになり、時々、事故の日のフラッシュバックに悩まされる日々。そして、そのフラッシュバックと同時に、アーリンは、息子を助けた代償を払うことになっていく。


過去に戻ればやり直しがきくのか

タイプスリップ系の映画やドラマも多いですが、ハッピーエンドのものは少ない気がします。あるとしても夢物語で、都合の良い感じにまとめられているというか。
そもそも「タイムスリップができる」事自体が夢物語ではあるけれど。
人生は選択の連続で、朝、起きるか起きないか、というところから既に始まっている。そう思うと人の人生というのは、常に複数の道が目に見えぬ形でそこにあるのかもしれない。
アーリンの場合も、自分勝手な母親の人生と、よき妻、良き母の人生があって、息子を死なせてしまったことで、今とは違う、良き妻、よき母の人生を取り戻そうとするも、その2つの人生が融合することはないのだということをまざまざと知らしめる映画になっていて。

多くの選択をしてきて、後悔もあるし、もう一度やり直せたらと思うことも多々ある。自分自身、父親を亡くしているので、もし、過去に戻って父親を救うことができると言われたら、やはり過去に戻るかもしれない。
けれど、それは結局、自分のエゴでしかないのかもしれない。
アーリンにしても、自分に対する自己嫌悪や罪悪感からもう一度やり直したいと思う。
もちろん、愛する息子をもう一度取り戻したいと言う思いはあるけれど、それも結局は「自分のため」でしかない。
自分の自己嫌悪や罪悪感、喪失感から逃れたいがための手段で、そんな自分勝手な思いで過去を変えようとすれば、最後には自分がその代償を払うことになり、それは最初の罪よりも更に取り返しのつかないことになってしまう。

ワタシたちは、過去に戻ってやり直せたら、もっと違う人生があるんじゃないかと、一度は考えることもあるかもしれない。けれど、よく映画やドラマのセリフでありますよね、「過去は変えられないけれど未来は変えられる」と。
過去を変えれば、それは自分の都合の良いことだけ変わるわけではなく、多くのことが変わってしまって、結局は自分や誰かがその代償を払うことになってしまうというのが、その仕組なのだと思います。

タイムスリップの穴に落ちる


アーリンは3度やり直しますが、どれも自分の望む方向には進まない。
けれどそのたびにやり直しを選んでしまう。
最初に息子を死なせてしまったことに苦しむのはわかるけれど、その償いは前に進むことでしか償えない。
過去に戻ってもやり直しはきかない。もう起こってしまったことは変えられないのだと改めて思い知らされます。
けれどアーリンは「過去」に執着して、それを何とか変えようと、その穴にはまってしまった。
もう二度と本当の現実には戻れないのかもしれない。

過去は変えられないからこそ、人は今を一生懸命生きようとする。
その中では、やっぱり後悔することもあると思うし、何かで罪悪感を抱くこともある。いいことや悪いことがあるのが人生でもあるし、前に進めずもがき苦しむこともあるかもしれない。けれど、結局は前を向くことでしか、自分を救うことは出来ないのかもしれないと思う。

映画「リバース過去の代償」は、スリラー的な要素はあるものの、盛り上げる音楽もそこまで派手ではなく、淡々とシンプルな作りの中に、「できるものならやり直したい」という人間の心理とその結末を上手く表現した映画と言えそうです。