※ネタバレ推奨ではありませんがネタバレしている部分もありますのでご注意ください。

作品紹介

雪深いアメリカの、ネイティブアメリカンが追いやられた土地“ウインド・リバー”で見つかった少女の死体―。新人捜査官ジェーン・バナー(エリザベス・オルセン)が単身FBIから派遣されるが、慣れない雪山の厳しい条件により捜査は難航。ジェーンは地元のベテランハンターで、遺体の第一発見者であるコリー・ランバート(ジェレミー・レナー)に協力を求め、共に事件を追うが、そこには思いもよらなかった結末が・・・。

監督テイラー・シェリダン
脚本テイラー・シェルダン
製作ベイジル・イヴァニク/ピーター・バーグ/マシュー・ジョージ/ウェイン・L・ロジャーズ/ヘリザベス・A・ベル
音楽ニック・ケイヴ/ウォーレン・エリス
出演ジェレミー・レナー/エリザベス・オルセン/ジョン・バーンサル/グレアム・グリーン/ケルシー・アスビル/ギル・バーミンガム

舞台はアメリカ中西部・ワイオミング州にあるネイティブアメリカンの保留地、ウインド・リバー。
春でも雪深く、時にマイナス30度にもなる過酷な地にそれはある。
「事実を元に」とあるけれど、それはこの話が事実というよりも、ネイティブアメリカンの女性が多く失踪や殺人に巻き込まれている、ということが「事実」なんだと思う。

私は監督や脚本の手腕とかうんちくとかには疎いのだけれど、この映画は監督の手腕を無視はできない。
麻薬戦争を描いた「ボーダーライン」やアメリカの貧困を描いた「最後の追跡」、そしてこの「ウインド・リバー」。テイラー・シェリダンの「フロンティア三部作」の最終章と位置づけられ、この「ウィンド・リバー」は初の監督作品になっています。

この映画の評価が高いのは、葬り去りたいアメリカの闇に深く切り込んでいるというのも一つの理由の気がしています。
という私も、この映画でこういう事実を知ったのですが、この問題点を理解するのためには、アメリカがどうやってできたのかという、歴史を知ることも必要になる。

映画の中にも、なぜ、この辺境の地にネイティブの人たちが住むことになったのか、その経緯はセリフの中で説明がありますが、私達はずっと「インディアンは悪者」というイメージを植え付けられてきて、でも実はそれが本当は違っていて、ここから始まったアメリカの負の歴史が、今もずっとそこにあるのだということを、あらためて突きつけているからなんじゃないかと思います。

ジェレミー・レナー

主演した『ハート・ロッカー』は2009年のアカデミー作品賞を受賞し、自身もアカデミー主演男優賞にノミネート。翌2010年公開の『ザ・タウン』でもアカデミー助演男優賞などにノミネートされた実力者。
『ミッション・インポッシブル』シリーズでもお馴染みなりました。
白人でありながら、ネイティブアメリカンの人々に寄り添い、自らも哀しい過去を持つコリーを力強く演じています。

エリザベス・オルセン

『マーサ、あるいはマーシー・メイ』で劇場映画デビューし、30の賞にノミネートされ、その内第37回ロサンゼルス映画批評家協会賞新人賞をはじめとする10の賞を受賞。
2014年、『GODZILLA ゴジラ』に出演。現在はアベンジャーシリーズにも出演しています。
今作ではフロリダからやってきたFBI捜査官を演じています。

引用元:映画.com

感想

一人のネイティブの女性が真っ白な平原を走る姿から始まる冒頭から、私達は、この女性がどうしてこんなところを走っているのか、何かから逃げているのか、まず、その謎に引きつけられます。
けれど、その謎はすぐには明らかにならず、その後、その女性は変死体となって発見される。
その第一発見者がジェレミー・レナー演じるコリーです。
コリーは、家畜を襲うピューマや狼などを仕留める凄腕のハンター。この土地のことにも詳しい。
けれど、3年前に娘のエミリーを失い、なぜ死んだのか理由もわからず、コリーに暗い影を落としています。

そして、この女性の変死体はコリーの娘の親友ナタリー。これが殺人なのかを見極めるためにFBIから派遣されたのがエリザベス・オルセン演じるジェーン。ジェーンはフロリダ出身で、この土地のことは何も知らず、極寒の地で、今にも凍えそうな薄着で到着する。
土地のことに詳しいコリーを案内役に、ジェーンはこの事件の捜査にあたります。

コリーがこの土地の案内人なら、ジェーンはこの土地のことは何もわからない私たち観る側の代表なのかもしれない。
実際、マイナス30度の気温の状況など、そんなところに行ったことがなければわからない。
ましてや、その気温の中で走れば肺が凍って破裂し、その血で窒息するなんて衝撃すぎる。
その他、スノーモービルのスピードが早いのは雪に埋もれないためだとか、雪に残った跡が重要なことだとか、私たちはこの土地のことをジェーンと一緒に学ぶことになります。

FBI捜査官ジェーンの役割

このジェーンという存在は、もしかしたらアメリカの一筋の希望というか、良心の象徴なのかもしれない。
暴行やレイプの痕跡はあるけれど、死因は肺出血で殺人ではない。
殺人でなければFBIの捜査班は来ないし、強姦と暴行では管轄は「インディアン管理局(BIA)」になってしまう。
そうすると、ろくな捜査は行われず、事件は闇に葬られてしまう。
ウインド・リバーの問題点の一つがここにある。

広大な土地に6人しかない警察官。ネイティブの人々は極寒の忘れられた土地に押し込められ、アイデンティティも奪われ、人々はドラッグやレイプ、殺人など多くの犯罪に巻き込まれている。そして、それをどうにもできない現実。

ジェーンはFBI捜査官でありながら、この事件に悲しみや怒りを覚え、経験が浅いとは言え、強い正義感で、コリーと一緒に闇の中に入っていく。それが一筋の安堵感というか。この土地のことに疎いはずの、何だか頼りなげな彼女が自分なりに一生懸命な姿が、このストーリーの一筋の光には違いないと思う。そして、私たちはジェーンと一緒に少しずつこの土地の現状を理解しようと導かれるようになっているんじゃないかと思う。

恋人たちを引き裂く凄惨な現実

そして、ようやく手がかりを見つけたとき、驚愕な事実を知ることになる。

採掘所の警備員マットの死体がみつかったことによって、マットとナタリーが恋人同士だったことがわかる。
マットは人里離れた山奥で裸で放置され、その死体はコヨーテなどに荒らされていた。

その採掘所のドアをジェーンがノックしたと同時に、二人がどうして死に至ったかが語られることになる。
二人は真っ当な恋人同士で、いつか二人でこの土地を出ようと話をしていた。
二人には、それが本当にできることなのかきっとわからなかったかもしれない。もしかしたらそんなことは出来ないと心のなかではわかったいたのかもしれない。けれど、そうやって未来のことを語ることが幸せだったんじゃないかなと思う。

そんな小さな幸せさえも奪う残酷さがここにはある。
同じ採掘所の仲間から襲われてしまうのだ。
同じ仲間のはずなのに、どうして人はそんなに残酷になれるのか。

マットだけ幸せなのが許せなかったのか。嫉妬ややっかみや、ただの欲望か。
誰かから何かを奪わないと満たされないものがあったのか。
ここでは何でも許されると思ったのか。
そもそも、この閉ざされた土地が人をそうさせるのか?
こういうとき、この世で一番残酷なのは人間なのかと思ってしまう。

復讐のハンター

採掘所の警備員とジェーン率いる警察官が銃撃戦を繰り広げている頃、コリーは、スノーモービルの跡をたどっていた。
コリーは猛獣を仕留めるハンター。あくまで「ハンター」として、仕留めるために何が必要かわかって行動している。
銃撃戦でジェーンが絶体絶命のとき、どこからか銃声が。
次々にやられていく警備員。これはハンターであるコリーがやっていることだとわかっているけれど、その時、コリーの姿は映されない。ジェーンを助ける時にようやく姿を見せる。

ジェーンを助けて、一人だけ逃げた犯人を追うコリー。
「引き渡さない」
その言葉が何を表しているのか、ジェーンもわかっている。
その犯人が自分の娘を殺したわけではない。でも、もしかしたら自分の娘も同じような状況に陥ったのかもしれない。
法はこの土地には届かない。

この土地に来てからの経験で、ジェーンもそれに気づいたはず。
わかっているからこそ、コリーを引き留めない。

復讐をしても、娘がどうして死んでしまったのか、その答えはでない。
けれどナタリーの敵(かたき)は打てたということか。
ハッピーエンドはないし、これからもずっと娘の面影を抱いて生きていく。

この映画を楽しむポイント

「楽しむ」という映画ではないかもしれないけれど、やはり、目をそむけてはならない現実があることを知るのは必要なことだと思う。知っても、何もできないかもしれない。それでも知らなければならないと思う。

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Discover or rediscover WIND RIVER movie directed by Taylor Sheridan in 2017.If you never seen this movie, let's go watch it and make a feedback.Music : For…


哀しみや残酷さ、厳しい現実、ウインド・リバーを取り巻く状況はこれからも続く。
だからこそ、これが「現実」にあることなんだと知ることで、私たちが一筋の光にならなければならないんじゃないかと思う。